【自由研究】家でできる発酵の実験『アルコール発酵による清涼飲料水に含まれる糖類の定量』

科学

 夏休みの自由研究にぴったりな、科学実験のアイデアをご紹介します!

と言いたいところですが・・・ぼくの実験記録そのままで、小学生には難しいかもしれない内容が入っています。

分からないよ!という方は、夏までに分かりやすく書きかえたものをアップしますので、しばしお待ちを。

この実験のキーワードは、ずばり「酵母(こうぼ)」の「発酵(はっこう)」です。

図1 記録した画像の一部

この実験を活かして、何か別の実験をするのもよし!

新しい発見は、ぜひコメントで教えてください!

概要

 酵母は、糖類を分解してエタノール(C2H5OH)と二酸化炭素(CO2)を生成する(アルコール発酵)。この化学反応によるCO2の生成量から、水溶液中の糖類の定量を試みた。CO2の生成量は、糖類の濃度に依存して増加し、これを対数方程式で表せることがわかった。この数式を用いて、市販の清涼飲料水に含まれる糖類の定量に成功した。

原理・基礎知識

 アルコール発酵は、酵母がエネルギーを得るための代謝プロセスであり、以下の化学式で表される。

C6H12O6 → 2C2H5OH + CO2
アルコール発酵の化学式


 反応速度はC2H5OH濃度、温度により変化する。反応速度は、C2H5OH濃度の増加に応じて減少し、濃度約20 %で停止することが知られている。温度に関しては、常に室温22 ℃で実験を行ったため考慮しない。

 酵母による発酵反応には基質依存性があり、特定の糖類のみを分解する。成分表示中の炭水化物は、酵母が分解しない物質も含むが(表1)、清涼飲料水にはその多くは用いられず、グルコース・フルクトースが甘味料としてよく用いられる。

表1 炭水化物の分類

使用器具・使用試薬

器具

 大さじ(15mL)、2mL計量スプーン、コップ(230mL)、食品用ラップフィルム、定規、水性ペン、マイコン(Raspberry Pi 2 Model B)、Webカメラ、電子レンジ


試薬

 ドライイースト(パン生地用)、固形ブドウ糖C6H12O6 (純度100%, 1個3.0g)、各種飲料(おーいお茶(緑茶)、午後の紅茶 ストレートティー、ポカリスエット、コカコーラ)

実験手順ー実験1

検量線の作成

  1. 常温で放置した水道水をコップに大さじ2杯入れた。そこに固形ブドウ糖1個を入れ、完全に溶解するまで攪拌した。
  2. 1で作製した水溶液の希釈により、100mL当たり10g、5.0g、2.5g、1.25gのブドウ糖水溶液15mLを作製し、それぞれのコップに入れた(水道水のみのものも別途行った)。
  3. すべてのコップにドライイーストを2mL計量スプーン1杯分加えて、軽く攪拌した。
  4. 外部からの異物混入、水溶液の蒸発を防ぐため、コップの口を食品用ラップフィルムで密閉した。
  5. 液面からの1cm間隔の高さを、コップの壁面に定規と水性ペンにより印をつけた。
  6. マイコンとWebカメラにより、3分間隔で画像を1枚撮影し、コップ内の状態を記録した。
  7. 記録した写真から、それぞれのコップで発生したCO2を含む水泡の高さの時間変化を調べた。
  8. C6H12O6濃度と水泡の高さの方程式を導出した。

実験手順ー実験2

清涼飲料水中に含まれる糖類の定量

  1. 各種飲料と、それを3倍希釈したものをコップに大さじ1杯入れた。ただし、コカコーラは、電子レンジで加熱しCO2を気化させ、水の蒸発分を補充した。
  2. すべてのコップにおいて、実験1-3~7と同様の操作を行った。
  3. 実験1-8で導出した方程式から計算した各種飲料の糖類の質量(C6H12O6換算)と、ラベルに記載された成分表示の炭水化物の質量を比較した。

結果・考察ー実験1

検量線の作成

結果 6で撮影した実験中の画像を図1、7で調べた水泡の高さの時間変化を図2、最大高さを図3,4に示す。

図2 C6H12O6濃度別の水泡の高さの時間変化
図3 C6H12O6濃度と水泡の最大高さ     図4 C6H12O6濃度と水泡の最大高さ(片対数変換)


考察 図2より、C6H12O6濃度が大きいほど、水泡の最大高さが高くなることがわかった。また、図2,3のグラフともに、対数関数的増加が見られた。特に、図3を片対数グラフに変換すると(図4)、グラフが直線的になることから、C2H5OH濃度と水泡の最大高さの関係を対数方程式で表せることがわかった。これは、CO2の生成速度という定数に、C2H5OH濃度の増加による反応速度の減少、水泡の崩壊による高さの減少などの様々な減少関数が加えられるためと考えられ、方程式を原理から精密に導出することは難しい。よって、図3,4から以下の近似した方程式を導出した。

c:C6H12O6濃度(g/100mL), h:水泡の最大高さ(cm)

結果・考察ー実験2

清涼飲料水中に含まれる糖類の定量

結果 各種飲料における水泡の最大高さ、推定した糖類の質量と実際の質量を表2に示す。

表2  各種飲料における水泡の最大高さ、推定・実際の糖類

考察 表2より、おーいお茶、午後の紅茶では、希釈の有無にかかわらず精度よく糖類を定量できている。ポカリスエット、コカコーラでは、希釈なしに比べ3倍希釈した場合に、より精度がよい。方程式は、C6H12O6濃度の増加につれ水泡の最大高さの増加が鈍くなることを示しており、糖類が多く含まれる飲料ほど、水泡の高さのわずかな違いが、糖類の定量誤差に大きな影響を与えるためと考えられる。つまり、希釈を行い、水泡の最大高さが0~3.5cm程度の範囲内で測定を行うことで、糖度計のような特殊機器を使用せず、発酵を用いて高い精度で水溶液中の糖類を定量できることがわかった。普段、量を意識せずにパン生地に入れている酵母の、発酵能力とその緻密さを視覚で科学的に感じられた実験だった。

参考文献

  • 慶応義塾大学 自然科学研究教育センター. アルコール発酵 (b). https://www.sci.keio.ac.jp/gp/2E73001A/17A5C7C5/F075937D.pdf, (参照 2021-11-01).
  • 大塚製薬 栄養素カレッジ 栄養教養学部 エネルギー源学科. 炭水化物. https://www.otsuka.co.jp/college/nutrients/carbohydrate.html, (参照 2021-11-01).
  • 國友 正和ほか. 改訂版 物理. 数研出版, 2019, 23p., ISBN978-4-410-81133-3.

あとがき

こういう数式使った実験の計画はあまり経験がないので、大変でしたが勉強になりました。

もともと対数なんて使うつもりなかったんですけど・・・こういう場合は一次関数じゃなくて指数対数なんかが出るんですね、本当に勉強になります。

実験2は、ドリンクをできるだけ希釈するのがポイントです。対数グラフを見て分かる通り、c=0~5が比較的に精度よく測定できますし、水泡の発生や崩壊を阻害する物質の影響を小さくできると思います。

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